Ultiracer、埼玉県久喜市の高齢者向け地域運動プログラムに参加
著者 Shaun Cheon
2025年のはじめ、Ultiracer(アルティレーサー)は埼玉県久喜市の高齢者向け地域運動プログラムに加わりました。久喜市は1月から3月にかけて、日本でUltiracerを紹介しているエアデジタル株式会社、そして株式会社安藤・間と連携し、指導のもとで行う運動とデジタルスポーツマシンを組み合わせたフレイル予防プログラムを実施しました(Kuki City, 2025;Air Digital, 2025a)。
フレイルとは、年齢とともに筋力や移動能力、活力が少しずつ低下していく状態のことです。多くの自治体が、高齢の方々が介護を必要とする前から活動的な生活を続けられるよう取り組みを進めており、久喜市はそこにデジタル技術をどう組み込めるかを検証しました。エアデジタルはプログラムを詳しい検証レポートにまとめ、久喜市はお知らせとあわせてこのレポートを公開しています(Air Digital, 2025b)。この記事では、プログラムの進め方、評価の方法、そして結果から言えること・言えないことを整理します。
会場
プログラムの会場は、アリオ鷲宮1階にある運動習慣化施設「SPORTS60&SMART」です。野球やサッカー、サイクリングなどを体験型スポーツマシンで楽しめる施設です(Air Digital, 2025a)。
参加者
久喜市によると、参加したのは要介護認定を受けていない68〜86歳の市民39名です。週1回、約1時間、全6回のプログラムに参加しました(Kuki City, 2025)。
エアデジタルのレポートには参加者の特徴も示されています。年代は75〜79歳が最も多く、BMIは普通体重の方が多く、健康状態は「健康である」と答えた方が多く、外出頻度は週5〜6回が最も多い結果でした(Air Digital, 2025b)。つまり、すでに介護を受けている方ではなく、自立して暮らす活動的な高齢の方々でした。なお、男女比についてはレポート内で記述が食い違っており、女性が多いとする箇所と男性が多いとする箇所があります。
参加回数は人によって異なりました。39名のうち、6回すべて参加したのが18名、5回が6名、4回が3名、3回が8名、1〜2回が4名です。レポートは、時節柄、体調不良による離脱者が一定数いたと記しています。
各回の流れ
レポートでは、各回の構成が次のように示されています(Air Digital, 2025b)。
- フレイル予防講座(初回のみ)
- 現況チェック(初回と最終回)
- 準備体操(10分)
- マシンを使った筋力トレーニング(15分)
- デジタルスポーツマシン(15分)

エアデジタルは、デジタルの運動をほかの活動と組み合わせた理由も説明しています。デジタルマシンだけでは筋力や関節の可動域を十分に高めることが難しいため、準備体操やトレーニングマシン、指導のもとでの運動と組み合わせているとのことです(Air Digital, 2025a)。
プログラムの中のUltiracer
レポートでは、2種類のデジタルスポーツマシンが紹介されています。ひとつはデジタルバイクとして紹介されたUltiracer、もうひとつは床に映像を投影するゲームプラットフォーム「DIDIM」です。DIDIMでは、時計の読み取り、簡単な計算、2つの数字から大きいほうを選ぶゲーム、虫採り、絵覚えの5つのゲームが使われました(Air Digital, 2025b)。
Ultiracerでは、プラットフォームの上でまっすぐに支えられた本物の自転車に乗るため、転倒の心配をせずにペダルをこぎ、ハンドルを操作しながら画面のバーチャルコースを走ることができます。なお、15分のデジタル運動のうち、各参加者がUltiracerをどれだけ利用したかはレポートには記載されていません。
レポートでは、下のスライドでUltiracerが紹介されています。スライドの文章は、他の場所で行われた研究に基づくエアデジタルによる製品説明であり、久喜市のプログラムで検証された内容ではありません。

評価の方法
評価は、対照群を置かずにプログラムの前後を比べるシンプルなものでした。初回と最終回に、参加者は次の5つの検査を受けました(Air Digital, 2025b)。
- 握力(右・左):レポートでは上肢筋力の評価として使われています。
- 片脚立位(右・左):片脚でどれだけ長く立っていられるかをみる、下肢筋力とバランスの検査です。
- 10m歩行:10mを歩くのにかかった時間と歩数です。同じ距離を少ない歩数で歩ければ、歩幅が広がったことを意味します。
- 二重課題10m歩行:頭の中で課題をこなしながら同じ距離を歩く検査で、注意が分散したときにも歩行が保たれるかをみます。どのような課題だったかはレポートに記載がありません。
- トレイルメイキングテストA(TMT-A):数字の書かれた丸を順番にできるだけ速く結ぶ検査で、注意機能と処理速度をみます。
レポートは、全6回に参加した10名の平均値をt検定で比較しました。また、3つのデジタルゲームのスコア変化が検査結果の変化と連動しているかも調べています(スピアマンの相関分析)。ただし、握力の測定回数や歩行速度(快適速度か最大速度か)といった測定手順の詳細は記されておらず、利用回数の集計では6回参加者が18名とされているのに、なぜ10名のみを分析したのかも説明されていません。
報告された結果

| 項目 | 前 | 後 | p値 |
|---|---|---|---|
| 握力・右(kg) | 20.8 | 21.3 | 0.196 |
| 握力・左(kg) | 19.5 | 20.4 | 0.0037 |
| 片脚立位・右(秒) | 28.1 | 33.6 | 0.210 |
| 片脚立位・左(秒) | 24.4 | 25.1 | 0.450 |
| 10m歩行・時間(秒) | 7.06 | 6.36 | 0.102 |
| 10m歩行・歩数 | 16.1 | 15.3 | 0.023 |
| 二重課題10m歩行・時間(秒) | 8.92 | 11.84 | 0.112 |
| 二重課題10m歩行・歩数 | 17.5 | 16.1 | 0.0017 |
| 注意機能テスト TMT-A(秒) | 81.0 | 66.7 | 0.112 |
全6回に参加した10名の平均値。太字はレポートが統計的に有意としている変化です(Air Digital, 2025b)。
有意だったのは3項目です。 左手の握力が約1kg向上し、ふだんどおり歩いたときも、認知課題をしながら歩いたときも、10mを歩く歩数が減りました。2つの歩数の結果をあわせると、歩幅がやや広がったと考えられます。
変化がより大きかった項目のいくつかは有意ではありませんでした。 右脚の片脚立位は約5秒延び、注意機能テストは約14秒速くなりましたが、10名という少人数で個人差も大きいため、偶然による変化である可能性を否定できません。
逆の方向に動いた項目もあります。 認知課題をしながら10mを歩く時間は、歩数が減ったにもかかわらず平均で約3秒長くなりました。この変化は有意ではなく、レポートでも特に触れられていません。
レポートは、デジタルゲームと検査結果との関連も調べています。表に示された27の相関係数のうち、レポートが取り上げているのは1つです。DIDIMの「大きい数字選び」のスコアが大きく伸びた参加者ほど、二重課題歩行の歩数も大きく減っていました(ρ = −0.817、p < 0.01)。この分析にUltiracerのデータは含まれていません。
このほかレポートでは、6週間でDIDIMの各ゲームのスコアが全体的に向上し、大幅に伸びた例もあったこと、多くの参加者が実証実験の終了後も継続利用を希望したこと、聞き取りに答えた全員がデジタルの活動を通じて参加者同士の会話が生まれたと回答したことが報告されています。
結果を読むうえでの注意点
これらの結果には、はっきりとした限界があります。
- 少人数で、自ら選んだ参加者。 分析対象は39名のうち全6回を終えた10名です。最後まで続ける方は体力や意欲が高いことが多く、参加者全体を代表しているとは言えません。
- 対照群がない。 参加しなかったグループがないため、2回目の検査で慣れてよい結果が出る効果や、1月から3月への季節の変化など、プログラムがなくても起きたはずの変化と区別できません。
- 多くの検査を一度に比較。 9項目を比較しており、検査の数が多いほど、偶然に有意の基準を超える項目が出る可能性も高まります。レポートではこの点の補正は行われていません。
- 複数の活動の組み合わせ。 毎回、準備体操、筋力トレーニングマシン、2種類のデジタルゲームを組み合わせていたため、どれか1つの効果とは言えません。個人ごとの利用状況が報告されていないUltiracerも同様です。
- データを超えた結論。 レポートは、プログラムが上下肢の筋力、バランス、歩幅の向上に影響を与えた可能性を結論としています。歩幅については歩数の結果が裏づけ、筋力については一部(左手の握力のみ)が裏づけていますが、バランスの検査は有意ではありませんでした。DIDIMが注意機能を高める可能性があるという指摘も、有意ではなかった注意機能テストの結果と1つの相関に基づいています。
- 記載の食い違い。 10名と18名の問題や男女比の記述の違いに加え、エアデジタルのプレスリリースは年齢を65〜89歳、久喜市は68〜86歳としています。
したがって、この結果は対照群のない小規模な実証実験1件のものです。Ultiracer単独の効果を示すものではなく、このプログラムが転倒やフレイル、認知症を予防することを示すものでもありません。
それでも、このプログラムは私たちにとって大切なことを示しています。自治体とパートナーが運営する公的なプログラムの中で、筋力トレーニングや仲間と楽しむゲームと並び、Ultiracerが高齢の方々向けの指導付き運動セッションに自然に溶け込めるということです。そして、対照群と機器ごとのデータがそろえば、こうした実証実験からさらに多くのことがわかるということも示しています。私たちが今後支えていきたいのは、まさにそうした評価です。
私たちにとっての意味
エアデジタルは、2023年の彩の国ふれあいピックなどのイベントで、埼玉県の皆さまにUltiracerを初めて紹介しました。久喜市のプログラムはそこから一歩進み、一日限りの体験を、自治体とともに取り組む毎週の運動習慣へと広げました。
久喜市、エアデジタル、安藤ハザマ、SPORTS60&SMARTのスタッフの皆さま、そして何より毎週参加してくださった市民の皆さまに、心より感謝申し上げます。地域や施設へのUltiracer導入にご関心がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
- Air Digital Co., Ltd. (2025a, March 20). [官民3者連携で開発] デジタルで老後も自分らしく。デジタルスポーツマシンを活用したフレイル予防プログラムを構築 [プレスリリース]. PR TIMES. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000075.000050507.html
- Air Digital Co., Ltd. (2025b). エアデジタル久喜市フレイル予防プログラム検証レポート [PDF]. 久喜市. https://www.city.kuki.lg.jp/_res/projects/default_project/page/001/010/002/20250328a.pdf
- Kuki City. (2025, March 28). [デジタルスポーツマシンを活用したフレイル予防実証実験に関するお知らせ, PDF]. https://www.city.kuki.lg.jp/_res/projects/default_project/page/001/010/002/20250328.pdf
画像:エアデジタル株式会社。グラフ:Ultiracer Insights(エアデジタルのレポートで公開された平均値をもとに作成)。