自転車30秒でパーキンソン病を早期発見?AIが見分けた研究を解説
著者 Shaun Cheon
この記事の要点: 高麗大学医学部の研究チームが、大胆な問いに挑みました。室内自転車を少しこぐだけで、早期のパーキンソン病を見つけられるのでしょうか。研究チームは、ほとんどが軽症のパーキンソン病の方29人と健康な高齢者36人に、ハンドル操作ができる室内自転車プラットフォーム「Ultiracer」の上で自分の自転車を30秒ずつ3回こいでもらい、ハンドルとシートポストのセンサーで、押す力、体の傾き、左右の揺れをすべて記録しました。このデータで学習したAI(ディープラーニング)モデルは、体にセンサーを一切つけず、キャリブレーションもなしに、2つのグループを86.1%の精度で判別しました。最も決め手になったのは、自転車の左右の揺れでした(Kim et al., 2025)。まだ初期段階の研究で診断のための検査ではありませんが、バランスを鍛えるそのライドで、バランスの状態も見守れる未来を示しています。

パーキンソン病の早期発見はなぜ難しいのですか?
パーキンソン病は世界で940万人以上が抱える病気で、障害の主な原因のひとつです(Kang et al., 2025)。根本的な治療法はまだありませんが、リハビリと薬で症状を和らげることができるため、早期発見と継続的なモニタリングがとても大切です。
問題は、パーキンソン病の初期症状が見逃されやすいことです。診断は今も、決まった受診日の問診と診察に大きく頼っており、研究チームによれば、早期パーキンソン病の誤診率は15〜24%と報告されています。DaT-SPECTやFP-CIT PET/CTといった脳画像検査ははるかに正確ですが、費用が高く、どこでも受けられるわけではありません(Kim et al., 2025)。そこで研究者たちは、MRI画像、脳波(EEG)、筆跡、声、歩行データにAIを使って、パーキンソン病の早期診断の手がかりを探してきました。ただ、どの方法にも課題があります。画像装置は高価で、脳波には専門家と電極用のジェルが必要で、多くの方法では体にセンサーを装着しなければなりません。
自転車が教えてくれた手がかり
ここで自転車の出番です。2010年、オランダの神経内科医が、数歩歩くだけで足がすくんでしまう進行期のパーキンソン病の男性が、自転車にはスムーズに乗れる様子を映像で報告しました(Snijders & Bloem, 2010)。研究者たちは、回るペダルがリズムの合図になり、ペダルをこぐ動きには一歩を踏み出すときに必要な左右の体重移動がいらないためだと考えています(Snijders et al., 2011)。
高麗大学のチームは、この考えを逆から見ました。自転車をこぐ動きが独特の運動制御を使っているなら、こぎ方の細かな特徴にパーキンソン病のサインが表れるのではないか。それを確かめるには、その場で車輪が回るだけの自転車以上のものが必要でした。
研究チームが行ったこと
参加者は、RealDesignTech(リアルデザインテック)が開発したUltiracerに自分の自転車を載せてこぎました。一般的な室内自転車(いわゆるエアロバイク)とは違い、Ultiracerでは自転車が動きます。車輪は自由に回るローラーに載り、フレームの下の支柱がハンドル操作に合わせて左右にスライドするので、屋外で走るような感覚になります。それでいて自転車をまっすぐ支えているので、転倒することはありません。

装置は4種類のデータを記録しました。
- ハンドルにかかる力: ヘッドセットに組み込んだ6軸力覚センサーで、ハンドルを押したりひねったりする力を測りました。
- サドルにかかる力: シートポストの2つ目のセンサーで、体重移動や体の傾きをとらえました。
- 左右の位置: レーザーセンサーで、自転車が中央からどれだけずれたかを追跡しました。
- 速度: 前ローラーのエンコーダーで、こぐ速さを測りました。
参加者は、FP-CIT PET/CTで診断が確認されたパーキンソン病の方29人(ほとんどがホーン・ヤール重症度分類の1〜2度の早期)と、年齢、身長、体重、男女比が同程度の健康な高齢者36人です。短い慣らし走行のあと、全員がゲームのような画面のマーカーを中央に保つようにしながら、自分のペースで30秒ずつ3回こぎました。
研究チームは、1回のライドをペダル約2回転分にあたる2秒ずつに区切り、1次元の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に入力しました。信号の中のパターンを見つけるのが得意な深層学習モデルです。モデルには年齢、性別、身長、体重も入力しました。結果は「はい・いいえ」だけでなく、パーキンソン病である可能性を数値で示します。
わかったこと
- 1人単位の精度は86.1%: 5分割交差検証で、モデルは参加者を86.1%の精度で正しく判別しました。感度(パーキンソン病の方を正しく見つけた割合)は83.3%、特異度(健康な方を正しく見分けた割合)は88.6%でした。
- 2秒単位でも80.7%: わずか2秒のライドの断片にも、役に立つ信号が含まれていました。
- すべてのセンサーが重要: どの入力データを1つ外しても、精度は13〜28%下がりました。
- 主役は左右の揺れ: 左右の位置のデータを外したときの精度の低下が最も大きく、1人単位で約22%下がりました。
- CNNは新しいAI構造より優秀: 同じデータで、LSTMやTransformerのモデルを上回りました。
この結果は、MRIを使ったAI(88.9%)からセンサーによる歩行分析(83.7%)まで、これまでに発表された多くの方法と同じ水準です。ただし研究ごとに参加者や方法が違うため、数字を単純に比べることはできません(Kim et al., 2025)。違いは検査の手軽さにあります。画像装置もジェルもウェアラブル機器もいらず、自転車をこぐだけです。
なぜ左右の揺れが最も重要だったのでしょうか?
自転車の左右の動きは、なぜこれほど多くを語ったのでしょうか。研究チームは2つの説明を挙げています。1つ目に、画面に表示されたのは左右の位置だけで、パーキンソン病の方は視覚情報により強く頼ることが知られています。2つ目に、自転車を左右に安定させることは姿勢の制御と同じような仕組みを使い、その姿勢制御は早期のパーキンソン病でもすでに影響を受けています。つまり、この揺れには、はっきりした症状が出る前の小さな運動制御の変化が表れている可能性があるのです(Kim et al., 2025)。同じプラットフォームでパーキンソン病の方のバランスの取り方を調べた別の研究とも通じる結果です(Kang et al., 2025)。
病院、ウェルネス施設、ご家族にとっての意味
研究の規模は小さく、参加者のほとんどが軽症で、モデルは新しい集団での検証もまだ必要です。完成した検査というより、可能性を示した第一歩と考えてください。症状が気になる方は、必ず脳神経内科の専門医にご相談ください。それでも、この方向性には大きな期待が持てます。
- 運動のように感じられる評価: 30秒のライドは画像検査よりずっと気軽で、ジム、リハビリ室、高齢者施設でも行えます。
- 判定ではなく可能性のスコア: 時間を追って記録できるスコアは、1回きりの「はい・いいえ」よりモニタリングに役立ちます。
- トレーニングと見守りを同時に: 自転車こぎは、パーキンソン病の方の運動機能、バランス、歩行の改善に役立つことがまとめられています(Tiihonen et al., 2021)。研究チームは、同じプラットフォームでリハビリと経過の評価を同時に行えると考えています。
この記事は、Ultiracerを使った3つの研究を紹介するシリーズの第1回です。来週は、同じプラットフォームでパーキンソン病の方が自転車の上でどのようにバランスを取っているかを明らかにした研究を紹介します。
ぜひ体験してください
Ultiracerは、実際のライドの傾き、揺れ、ハンドル操作を室内に再現し、転倒の心配なく安全に乗りながら、バランスと協調性を計測します。Healing Care Empirical Support Team(ヒーリングケア実証支援事業団)が高齢者10人を対象に行った研究では、参加者はUltiracerの運動中の安定性を5点満点中4.6点と評価しました(Healing Care Empirical Support Team, 2023)。私たちはこれをニューロサイクリング(Neurocycling)と呼んでいます。病院、リハビリクリニック、研究機関、ウェルネス施設、高齢者施設で、患者さんや会員の方のためにUltiracerの導入をご検討の方は、お問い合わせからご連絡ください。デモや共同研究のご相談をご用意します。
参考文献
- Healing Care Empirical Support Team. (2023). Demonstration of senior exercise capacity and function improvement using the balance training cycling system (Final report, Validation Test Support A-7). Gyeonggi Business & Science Accelerator; Industry-Academia Cooperation Office, Kyung Hee University.
- Kang, S., Park, J.-W., Kim, Y., Moon, J., Lee, Y., Lee, C.-N., Kim, J., Kim, S.-J., & Kim, B.-J. (2025). Biomechanical analysis of patients with mild Parkinson's disease during indoor cycling training. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 22, 127. https://doi.org/10.1186/s12984-025-01657-1
- Kim, Y., Kim, J., Kang, S., Lee, Y., Moon, J., Park, J.-W., Kim, B.-J., & Kim, S.-J. (2025). Convolutional neural networks-based early Parkinson's disease classification using cycling data from a steerable indoor bicycle. Scientific Reports, 15, 43253. https://doi.org/10.1038/s41598-025-27193-5
- Snijders, A. H., & Bloem, B. R. (2010). Cycling for freezing of gait. New England Journal of Medicine, 362, e46. https://doi.org/10.1056/NEJMicm0810287
- Snijders, A. H., Toni, I., Ružička, E., & Bloem, B. R. (2011). Bicycling breaks the ice for freezers of gait. Movement Disorders, 26(3), 367-371. https://doi.org/10.1002/mds.23530
- Tiihonen, M., Westner, B. U., Butz, M., & Dalal, S. S. (2021). Parkinson's disease patients benefit from bicycling: A systematic review and meta-analysis. npj Parkinson's Disease, 7, 86. https://doi.org/10.1038/s41531-021-00222-6